地方銀行再編
1. 地方銀行統合の現状と課題(M1、M2の定義と問題点)
日本の地方銀行はバブル崩壊以降に再編が進み、1990年に地方銀行・第二地方銀行合計132行だったものが2019年には102行まで減少しました 。2001年から2020年3月期までに地方銀行同士の統合は19件発生し、全103行中35行(3分の1超)が統合を経験しています 。低金利や人口減少で経営環境が厳しさを増す中、政府・金融庁も**「地銀の数が多すぎる」との問題意識から統合を後押ししており、統合時の費用支援策(資金交付制度)や独禁法の特例(2020年施行、2030年まで)を講じています 。資金交付制度では合併・経営統合に伴う勘定系システム統合や店舗統廃合費用の一部として最大30億円を補助**する枠組みが用意されました 。こうした環境下、近年は愛知銀行と中京銀行(2023年合併)や青森銀行とみちのく銀行(2025年合併予定)など、地域金融再編の動きが活発化しています。
地方銀行の統合形態には、(M1)経営統合段階と**(M2)合併段階**の2ステージがあります。一般にM1とは経営統合発表から正式合併完了までの期間を指し、多くの場合まず持株会社方式で統合して経営を一体化させつつ、実際の銀行合併(法人統合)とシステム統合完了まで数年の移行期間を設けます。M2は合併完了後の段階で、法的・組織的にも1行にまとまり勘定系など基幹システムも一本化された状態です。
M1期間の典型的な長さは約3~4年にも及びます。例えば荘内銀行(山形)と北都銀行(秋田)は2014年に持株会社の下で経営統合しましたが、合併と勘定系システム統合に必要な期間を考慮し正式合併を2027年1月と設定しています (統合準備委員会は2024年2月に発足)。このように、システム統合作業が統合プロセス全体のスケジュールを規定する最大のボトルネックとなっています。
M1状態の問題点として、統合効果がすぐには発揮されずコストだけが重複することが挙げられます。統合完了までは旧銀行ごとに別個の勘定系を維持しなければならず、システム保守費用や事務オペレーションが二重にかかります。また店舗網や人員配置の合理化も合併完了まで制約され、効率化の遅れにつながります 。特に顕著なのが送金業務の非効率です。統合後もシステムが別々の間は、グループ内の資金移動であっても通常の銀行間送金扱いとなります。そのためお客様視点では同じグループ銀行間の振込に時間と手数料がかかる状況を強いられます。実際、日本の銀行間送金手数料は長年にわたり3万円未満で1件117円、3万円以上なら162円に固定されており 、公正取引委員会から「事務コストを大幅に上回る水準」と指摘されるほど高止まりしています 。統合行では顧客サービス向上のためグループ内送金手数料を無料化するケースもありますが、その場合送金毎に発生する117~162円のコストは銀行側の負担となります。例えば月間10万件のグループ内振込が発生すれば、それだけで年間数億円規模の費用が発生する計算です。またシステムが分かれていることで即時入金ができず、手作業での入出金確認や相互照合が必要になることもあり(データ連携の不備があれば人的な補正対応が発生する)、M1期間中の事務負荷・人的コストは膨大です。こうした非効率は統合効果を棄損するだけでなく、顧客にも「まだ統合されたとは言えない」不便を強いるため、経営統合のメリットを早期に実感させづらいという課題になります。
要するに、M1期間は統合効果を上げられない「宙ぶらりん」の期間であり、その主因は勘定系システム統合に時間とコストがかかることにあります 。M2でようやくシステムが一本化されれば、店舗・人員の重複解消やサービス一元化によるシナジーが本格化します。しかし多くの地銀統合では、このM1の長期化がネックとなり経営統合から効果発現までタイムラグが生じています。
2. GRMtMAOSの技術的特性と導入メリット
こうしたM1期間の課題を解消するために提案されているのが®️GRMtMAOSという新しい統合ソリューションです。GRMtMAOS(Global Reciprocity Many-to-Many Account Opening Systemの)は、複数銀行の勘定系をリアルタイムで連携させる中間システムです。これを統合プロセスに導入することで、正式なシステム統合が完了していなくても統合初日から両行を一体化したように振込等のサービスを提供できます。すなわち、経営統合直後から**「事実上の同行間送金」**を実現することが可能になります。
GRMtMAOSの技術的なポイントは、各銀行の勘定系の間に“仮想的な単一銀行レイヤー”を構築する点です。具体的には、両銀行の口座データを紐づけて管理し、片方の銀行から他方の銀行宛に振り込み指示があれば、®️GRMtMAOS上で即時に送金元口座の引き落としと送金先口座への入金処理を同時に実行します。従来は全銀ネット経由で行っていた他行宛振込を、グループ内ではGRMtMAOSが仲介することで内部振替とほぼ同等のスピード・手数料ゼロで処理できるようになります。言い換えれば、複数の勘定系を事実上一体化させるリアルタイム処理基盤が®️GRMtMAOSです。
この仕組みにより統合初日から顧客サービスを単一銀行並みに統一できます。振込手数料はグループ内なら無料・即時入金となり、顧客は統合前と比べ利便性が向上します。銀行側にとっても、前述のような振込手数料負担や手動の事務処理が不要となり、大幅なコスト削減につながります。また店舗・ATMネットワークも実質的に共有化でき、グループ内どの店舗でも同等のサービス提供が可能となります。さらには、勘定系統合の段階的な移行が可能になる点も技術的メリットです。GRMtMAOS導入下では、最終的なフルシステム移行を急がずとも顧客サービス面では統合効果を出せるため、各種システムの本格統合作業を安全に進める余裕が生まれます(ビッグバン移行によるシステム障害リスクを低減できます)。その意味でM1状態を飛ばしてM2状態に近い運用を即座に実現しつつ、裏側のシステム統合は柔軟に進められるのがGRMtMAOSの強みです。
導入メリットのまとめ:
• 即時のサービス一体化: 振込・残高照会など主要サービスを単一銀行と同様に提供可能。統合直後から顧客に不便を感じさせない。
• コスト削減: 全銀ネット等を経由した他行扱い処理が不要になるため、振込手数料や清算業務のコストがゼロに。M1期間に発生していた人手による照合作業も省力化。
• 期間短縮: システム統合完了を待たずに統合効果を発現できるため、合併までの期間を実質短縮。極端な場合、経営統合から極めて短期間で正式合併に移行することも可能となる。
• 段階的な統合作業: 顧客影響を抑えつつシステム移行を進められるため、リスク分散が可能。必要に応じて旧システムを併存させつつ徐々に集約できる柔軟性。
• 統合プロジェクトの負荷軽減: 従来M1期間中に並行運用していた二重の勘定系運用・データ突合管理が不要となり、IT部門・事務部門の負荷が減少する。これにより統合プロジェクトチームは戦略面(店舗再編や人員配置計画など)にリソースを集中できる。
以上のように、GRMtMAOSは**「勘定系統合が終わらないと得られなかったメリット」を先取りする技術と言えます。実際、東京きらぼしフィナンシャルグループ(東京都民・八千代・新銀行東京の統合)では「一体的な金融サービス提供のために不可欠な銀行システム統合」プロジェクトを4年がかりで遂行し 、2020年5月に全システム統合を完了させました。その結果、年間約100億円(約20%)のコスト削減など大きな効果を生んだと報告されています 。GRMtMAOSを用いれば、このようなシステム統合による効率化効果**を統合初期から享受できる可能性があります。
3. 経済的効果の試算(コスト削減率、期間短縮、再編件数への影響など)
GRMtMAOSの導入によって期待される経済的効果は大きく、コスト削減効果と統合プロセス短縮効果、ひいては再編促進効果の3点に整理できます。
• コスト削減効果:
M1期間で発生していた重複コストの大部分が削減されます。振込手数料負担については、前述のとおりGRMtMAOS導入によりグループ内送金に係る1件あたり117~162円の費用が不要となります 。仮に年間100万件のグループ内振込があった場合、単純計算で年間1億円超の直接コスト削減です。さらに、従来二重に維持していた勘定系システムの運用保守費用、人員の重複配置による人件費も統合初期から圧縮できます。例えば前述の東京きらぼしFGでは、3行統合により年間100億円程度(約2割)のコスト削減を実現しました 。地方銀行の統合では規模によりますが、経費の15~20%削減が一つの目安とされています 。GRMtMAOSはこの削減効果を3~4年前倒しで享受することを可能にします。また福井銀行と福邦銀行の試算では、合併に伴う店舗統廃合やシステム統合により2030年3月期には基盤的収支を50億円以上改善できる見込みとされています 。GRMtMAOSの導入で統合効果発現が早まれば、この50億円規模の収支改善をさらに早期にもたらすことができます。加えて、M1期間短縮によって統合作業に従事する人的リソース(プロジェクト要員)の稼働コストも削減できます。統合準備に通常必要だった数年間の会議・調整・システムテスト等が圧縮されるため、その分のコンサル費用・人件費も節約できます 。総合的に見れば、GRMtMAOSは統合に伴うトータルコストを数十億円規模で削減し得るポテンシャルがあります。
• 期間短縮効果:
従来、地方銀行の統合プロジェクトは発表から完了まで平均3~4年程度を要しました 。GRMtMAOS導入により統合初日から顧客サービス・事務を一体化できるため、極端に言えば法的統合(合併)を待たずに実質的な統合作業を完了できます。これにより正式合併のタイミング自体も前倒しが可能です。例えば前述の荘内銀行・北都銀行のケースでは、システム統合準備のため合併を2027年に設定していますが 、もしGRMtMAOSで即時の同行間取引一体化が可能なら、合併時期を数年前倒しし早期に新銀行としてスタートできた可能性があります。仮に統合完了までの期間を3年から1年に短縮できれば、その66%もの時間短縮となります。期間短縮の効果は、単に早く楽になるだけではありません。統合プロジェクトが短期で完了すれば、関係者のリソースを他の経営課題に振り向けることができ、統合プロセス中の経営ブレや不確実性も減ります。特に地方銀行の場合、統合発表から完了まで地域経済や顧客に不安を与えないよう細心の注意が必要ですが、期間が長引くほど環境変化による計画修正リスクが高まります。GRMtMAOSによって統合プロセス自体を迅速化できれば、統合効果の前倒し獲得と相まって経営の安定性・機動性が増すでしょう。
• 再編件数への影響(再編加速効果):
コスト・期間の大幅な改善は、業界全体の再編インセンティブを高めると考えられます。従来、地方銀行同士の合併には「システム統合費用がネックで採算に合わない」「統合準備に時間がかかりすぎる」という声がありました。しかしGRMtMAOSでその懸念が解消されるなら、統合に踏み切るハードルは格段に下がります。実際、経営統合(持株会社方式)についての研究では、統合後に経費率(OHR)の低下と収益率(ROA)の上昇が確認される一方、合併では統合コスト増により効率化効果が明確でないケースが多いと報告されています 。これは裏を返せば、合併時のコスト負担さえ抑えられれば合併も大きな効率化メリットをもたらし得ることを示唆します。GRMtMAOSはまさにその鍵となる技術であり、「合併しても効果が出にくい」という通説を覆しうるツールです。今後、本技術の存在が広く知られコスト面の後押し(補助金適用等)もあれば、統合を模索する地銀ペアが増加すると予想されます。
定量的に見ても、仮にGRMtMAOSが業界標準となれば再編ペースは飛躍的に向上する可能性があります。現在、地方銀行(第一地銀)は62行、第二地銀は37行前後と合わせて約100行弱が存在します(2024年時点) 。政府・市場の見立てでは将来的に「1県1地銀」が望ましいとも言われ、最終的に50行程度まで減るとの観測もあります。過去20年での統合は19件 でしたが、GRMtMAOSのようなソリューションで統合効率が飛躍すれば、この残り約50行減少という再編を一気に10年足らずで達成することも絵空事ではありません。実際2020年代前半だけでも、富山・石川(北陸銀行と北國銀行の提携)、長野(八十二銀行と長野銀行の経営統合)、東北(青森みちのく銀行誕生)など、次々に統合案件が進んでいます。GRMtMAOS導入で各案件の完了時期が早まり、次の再編に着手する余力も生まれれば、同時並行的に複数の統合プロジェクトを回せるようになります。その結果、地方銀行再編のスピードは飛躍的に加速し、ひいては地域金融再編の目標(過剰行数是正や経営体力強化)をより早期に実現できるでしょう。
以上の試算から、GRMtMAOSは統合当事行にとっての直接的な費用削減・収益向上効果に加え、業界全体の構造改革を押し進めるインパクトを持つと評価できます。コスト削減率で15~20%程度、統合期間で60~70%短縮という定量効果を見込め、結果として統合件数が増加・早期化することで地域銀行網の効率化が図られます。
4. 今後の展望と政策提言
今後の展望として、GRMtMAOSのような技術が普及すれば地方銀行再編はこれまでにないスピードで進む可能性があります。一県一行体制が現実味を帯びる中、各地域で経営基盤の強い地方銀行が誕生し、過剰な競争の是正と経営効率の向上が期待できます。統合によって得られたコスト削減分は地域への融資拡大や新サービス開発に振り向けられ、地域経済の活性化にもつながるでしょう。また、統合プロセスがスムーズになれば、これまで再編に慎重だった地銀も戦略的提携・合併を検討しやすくなり、結果的に地域金融再編の裾野が広がる展望です。
もっとも、こうした技術を最大限活かすには政策面での後押しが重要です。以下に主な提言をまとめます。
• ① 技術導入へのインセンティブ強化: 金融当局は資金交付制度の運用において、GRMtMAOSのような統合効率化システムの導入費用を明確に補助対象として位置付けるべきです。現在の枠組み(最大30億円補助 )を拡充し、実際にM1期間短縮に寄与する技術投資には上限いっぱいの支援を行うことで、銀行側の導入意欲を高められます。また補助金だけでなく、統合を決断した地銀同士に対し金融庁が技術面のアドバイザリーを提供したり、ベンダー選定の情報提供を行うなどソフト面の支援も有効です。
• ② インフラの標準化・共同化の推進: 極論すれば、地方銀行が皆同じ勘定系プラットフォーム上で動けば統合作業は飛躍的に容易になります。現状でもNTTデータの地銀共同センターなど複数行でシステムを共同利用する例がありますが、今後はそれをクラウド上でより柔軟に利用できる「統合バンキングクラウド」の構築が検討されています 。NTTデータは2028年頃を目途に共同利用型勘定系を順次クラウドに載せる計画であり 、これによりデータセンターやハードの統合管理で金融機関のシステム管理負担を軽減し、各行は競争領域にリソースを集中できるとしています 。政策的にも、こうした共通基盤への移行を促進することで、将来の統合に備えた「下地作り」を進めるべきです。具体的には、共同センター参加行への補助や税制優遇、あるいは地域ごとの勘定系共同化に対する預金保険機構の支援枠新設などが考えられます。業界標準の統合プラットフォームを確立し、その上でGRMtMAOSのようなリアルタイム連携技術を組み合わせれば、もはや統合におけるシステム障壁は限りなくゼロに近づくでしょう。
• ③ 統合プロセスの制度面整備: 法的な合併手続きや認可のプロセスも、技術進化に合わせて見直しが必要です。現行ではシステム統合に時間がかかる前提で統合準備期間が考慮されていますが、今後M1短縮が常態化すればより迅速な認可フローが求められます。金融庁や関係当局には、統合スキームの柔軟な運用(例えば形式上は持株会社方式から短期間で吸収合併に移行することの許容など)や、統合初期の顧客保護策ガイドライン策定など、新技術を織り込んだ制度整備を提言します。また、統合後のモニタリング体制についても、統合効果が迅速に出る分、統合による地域金融への影響を早期に検証・フォローアップする仕組みが必要です。具体的には、統合行に対し「統合効果の事後検証報告」を求め、コスト削減や地域貸出の増減をチェックするなど、統合が地域経済に資する形で行われているか監督することも大切でしょう。
• ④ デジタル戦略との両立: GRMtMAOS導入によって生まれた余力を、新たな収益源開拓やDX(デジタルトランスフォーメーション)に振り向けることも重要です 。統合はゴールではなく手段であり、統合後の新銀行が地域のニーズに応えるビジネスモデル変革を進めなければ、本質的な経営改善にはつながりません 。政策当局としても、統合支援と並行してデジタル化・業態転換への支援策(例:地域銀行によるフィンテック企業との提携支援、非金融分野進出の規制緩和など)を講じ、統合効果+新たな成長戦略による地域金融の持続可能性向上を後押しすべきです。
総じて、地方銀行再編の加速に向けては**「技術(テクノロジー)の革新」と「制度(ルール)の整備」が車の両輪となります。GRMtMAOSは技術面でM1期間という従来の壁を打ち破るソリューションですが、これを最大限活かすための政策的支援策・業界の協調が不可欠です。幸い、政府も地域金融強化策の中でデジタル活用や収益力強化策を議論しており、タイミングとしては追い風があります。今後5~10年で訪れると予想される地銀再編のピーク期に向け、本稿で述べたような技術と政策の融合によって、円滑かつ迅速な再編と地域金融サービスの維持向上を両立させることが極めて重要と言えるでしょう。地方銀行各行にとっても、本格的な人口減少社会を目前にスピード感ある戦略的再編は避けて通れない課題です。その痛みを最小化し将来への投資に転換する意味でも、GRMtMAOSの導入検討を含めた次世代型の統合戦略**に踏み出すことが期待されます。政府・業界一体となった取り組みにより、“選択と集中”が進む地方金融界が持続的に地域を支える姿を実現できるでしょう。
Sources:
• 公的支援策および銀行間手数料の現状
• 地方銀行統合の具体例(荘内・北都銀の統合スケジュール)
• 地方銀行数・統合件数の推移データ
• 東京きらぼしFGの統合プロジェクトと成果
• 福井銀行・福邦銀行の統合に伴う収支改善見込み
• 統合形態別の効率化効果に関する分析結果
• 勘定系システム共同化(統合バンキングクラウド)の構想
